2015年7月13日 小平の西友で紹介してもらった。
大津秀一(おおつ・しゅういち)
1976年、茨城県生まれ。岐阜大医学部卒。東邦大医療センター大森病院緩和ケアセンター勤務。近著に「死ぬときに人はどうなる 10の質問」。大津秀一オフィシャルブログ アメブロ
医療の一隅と、人の生を照らす
1回目
(2011年2月24日 読売新聞 yomiDr.)人生の最後に、人は何を思うのだろうか。患者の苦痛を和らげる緩和医療医として、1000人以上をみとった経験から「死ぬときに後悔すること25」を書いた大津秀一さんに聞いた。
――なぜ緩和医療医になったのですか。
大津 医師になって3年目、消化器内科を担当していた時、末期のがんで重い病状の患者が多く、なかなか苦痛がとれませんでした。そんな時、大阪大学の緩和ケア医、恒藤暁教授が書いた「最新 緩和医療学」を読んで、症状を和らげる方法があるのを知り、目からうろこが落ちました。その本に従い、胸水がたまって苦しんでいた患者にステロイド剤を使ったところ、ピタリと治まった。これは驚きで、緩和医療はすごいなと思いました。同じように、腸閉塞や、骨転移の強い痛みもコントロールできるようになり、緩和医療の世界に飛び込みました。それまでは、がん患者が亡くなる時、ご家族には外に出ていただいて、30分ほど蘇生措置をして、呼吸や心拍が元に戻らないことを確認して家族に戻ってきてもらい、死亡宣告していた。テレビドラマにあるような、患者が「ありがとう」と最後に言う光景とはあまりに違う。
「患者や家族は、こんな蘇生措置を望んでいるのだろうか。患者が最後にそばにいて欲しいのは、僕たち医者じゃないはず」と考えていました。
治る人も治らない人も同じように治療されていて、「これでいいのか」と迷いがあった時に、大事なのはQOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)だ、その人を支えてあげるのが医療だと思ったのです。
――治る人も治らない人も、同じような治療がされていますか。
大津 ある日、当直していたら、膵臓がんの患者さんが、糖尿病もあるのに、インスリン注射を拒否している、と看護師に呼ばれた。病棟に行くと、その患者は「僕は余命1、2か月と宣告されています。1日4回、血糖値を測って、インスリン注射することに意味があるのですか。血糖値は何年後かに合併症を出さないために下げるものでしょう。なぜ余命わずかな僕に必要なのですか」と聞く。彼の言う通りです。それまでは何の疑問もなく、血糖が高ければコントロールするものだと思っていた僕にとって、雷が落ちたような衝撃でした。僕たちがよかれと思ってしていたことは、患者から見ると全然見当違いなのではないかと思うようになりました。末期がん患者に点滴をすると、むくみが出てかえって苦しくなる。そこで点滴を減らすと、緩和医療を知らない病院では「安楽死させる気ですか」と言われる。みんなを納得させられる経験を積もうと、緩和医療をしている京都の日本バブテスト病院に移りました。そこで、患者の家族を支えることや、看護師やソーシャルワーカー、宗教家、ボランティアの力も合わせるチーム医療を学びました。
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2回目
(2011年2月25日 読売新聞 yomiDr.)――「死ぬときに後悔すること25」を書いたきっかけは何だったのですか。
大津 がんの末期など重い病気の時、残りの時間を知らずに過ごす人が少なくない。がんは、余命が2か月くらいになると急に状態が悪くなり、放物線のようにすとんと落ちます。やりたいと思っていたことをする時間や体力がなくなり、「あれをやっておけばよかった」と後悔することがとても多いのです。
亡くなる前に「先生、生きているだけでも幸せなんだ。もっとやるべきことをちゃんとやらないといけない。残り時間を大事に過ごすことの大切さを社会に伝えてほしい」と言います。そういう声を伝えなくてはいけないと思いました。
――自分のことだけでなく、残される人のことを考えるわけですね。
大津 それが人間のすごいところですね。苦痛が強いと、早く楽にして欲しいと思ってしまうが、緩和医療で苦痛がとれれば、家族のことを考える。ほかの患者の世話をする人もいます。
――「もう思い残すことはない」と言って亡くなる人はいますか。
大津 全く後悔がないという人は少ないです。だいたいの人は、大なり小なり後悔はあるし、それは普通のことだと思います。
――「後悔はない」という方に共通することはありますか。
大津 性別も生い立ちもさまざまですが、生きること、死ぬことをすごく考えてきた、ということは言えます。だいぶ前から「死は不幸ではなく、その時が来たら迎え入れるもの」という心の準備があったのではないでしょうか。穏やかに生きてきた人もいるし、浮き沈みの激しい波乱万丈の人生の人もいて、端から見た幸福や不幸には、あまり関係ないように思います。
――元気な時に、人生や死について考えるのは、なかなか難しいかもしれません。がんになると、治すことが最大の目標になって、死ぬことは考えてはいけないような状況があるように思います。
大津 本人が「もうだめかな」などと言おうものなら、周囲から「何言ってるの、頑張らなきゃだめじゃない!」と言われたりします。弱気になったら負け、死や最期について考えてはいけない、という雰囲気があります。死をタブー視して逃げたくなるのですが、逃げれば逃げるほど追いかけてくる。終末期の患者に抗がん剤を使うと、副作用で衰弱が早まってむしろ命を縮めるとか、「生きたい」と思ってやることが、苦しみを増すこともあります。
逆に、あるところで治療をやめた人が、かえって元気で長生きすることもあります。余命1か月くらいと思われたところから、無治療で1年くらい生きた方が3、4人います。そういう方たちは楽天的で、がんのことなど忘れたかのように過ごしていました。体に、がんという異物があって、それと全力で闘うとイメージすることは、体を損ねるかもしれない。戦闘状態はストレスになります。
――患者が「もうだめかな」と言った時、周囲の人はどう接したらいいでしょう。
本人が何を望んでいるか、しっかり理解して、それをそのまま受け止めてあげることが大事なのではないでしょうか。死ぬときに後悔すること25
1 健康を大切にしなかったこと2 たばこを止めなかったこと
3 生前の意思を示さなかったこと
4 治療の意味を見失ってしまったこと
5 自分のやりたいことをやらなかったこと
6 夢をかなえられなかったこと
7 悪事に手を染めたこと
8 感情に振り回された一生を過ごしたこと
9 他人に優しくしなかったこと
10 自分が一番と信じて疑わなかったこと
11 遺産をどうするかを決めなかったこと
12 自分の葬儀を考えなかったこと
13 故郷に帰らなかったこと
14 美味(おい)しいものを食べておかなかったこと
15 仕事ばかりで趣味に時間を割かなかったこと
16 行きたい場所に旅行しなかったこと
17 会いたい人に会っておかなかったこと
18 記憶に残る恋愛をしなかったこと
19 結婚をしなかったこと
20 子供を育てなかったこと
21 子供を結婚させなかったこと
22 自分の生きた証しを残さなかったこと
23 生と死の問題を乗り越えられなかったこと
24 神仏の教えを知らなかったこと
25 愛する人に「ありがとう」と伝えなかったこと
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緩和医療医・大津秀一さんインタビュー全文
1.治る人も治らぬ人も同じ治療でよいか yomiDr.
2.「死ぬときに後悔する」25項目 yomiDr.
3.長寿になって死が遠ざかった現代 yomiDr.
4.やりたいことした人は輝いている yomiDr.
5.死をタブーにせず、家族と話し合う yomiDr.
6.残された時間で、どう生きたいか yomiDr.
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近藤誠さんが流行る深層
1.近藤誠さんが流行る深層 yomiDr2.その言論の特性 yomiDr
3.メディアの要因 yomiDr
4.不信を持たれやすいがん医療 yomiDr
5.患者と医師のコミュニケーションの不足 yomiDr
6.痛みや苦しみから生じる懐疑 yomiDr
7.近藤誠さんが流行る深層(7)“近藤誠さんたち”を生み続ける背景と対策 yomiDr.
8.近藤誠さんが流行る深層(終)医療にも地道な相互理解・思いやりが大切 yomiDr.
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